No.6
(第3回オール川柳賞準賞の作品です)

 

原罪の甘さで熟れてくる 林檎

 空き瓶の底どこまでも世紀末

  存在の意味 そこにあるドラム缶

    輪廻転生 ひらひらひらと 桜散る

     死神と ワルツを踊る 春の宴

      写経百巻いのちをつなぐ灯を点す

                          


 

 のんびりと波打つ春の心電図

  あじさいの彩に迷いが溶けて行く

   三叉路の女神は風を産み続け

    流罪かも知れぬ余命を抱いている

     教会の坂ゆるやかに 桜桃忌

      螺旋階段を昇りつめると春に出る

  おでん屋の親父が読んでいるニーチェ

 


 

冬木立最後の逃げ場かも知れぬ

 言い訳も聞かずに湯豆腐が煮える

  二人きりの孤独を知っているふたり

   ふくらんだ餅を信じていた不覚

    乾電池切れたピエロの冬帽子

     あいまいな一日でしたもう寝ます

  妻を愛しなさい 地球を愛しなさい



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