その67「女児たちの声援」

女児たちの声援

 昭和の女児の遊びと言えば、おはじき・お手玉・あやとり、などを思い浮かべる。いろいろ昔遊びがある中で、今は全く見かけないのが「ゴム跳ね」だ。長いゴム一本ですべてのおぜん立てが完了し、両脇に立ったふたりでゴムを張る。大きい子も小さい子も隔てなく一緒になってゴム跳ねに興じていた。姉たちの傍で、おかっぱ頭の少女たちの器用さを感心しながら見ていた記憶がある。
未だにルールが分からないので、調べてみた。片足を跳ね上げて技を競い合うのが「ゴム段」。歌を歌いながらリズムに乗せてゴムに足を引っかける。一段目は足首で、二段目は膝で、それに成功すればゴムの高さが上がってゆく。走り高跳びのポールのようにどんどんゴムを高くして、最後には首にゴムをかけることになる。
風景はしっかりと見えているが、こう書きながらも、参加経験がないためにルールが分からない。歌は確か、えっさえっさえっさほいさっさ、つまり、おさるのかごやだったろう。
特筆すべきは、女児たちは競技の最初に必ず挑戦者に向かって津軽弁の声援を送っていた。「つぐせへナ。」これは、「失敗しないでね」という意味である。
 私には、この声援がゴム跳ねとセットになっているように思われた。女児だからもう少し柔らかい調子で「つぐせへナやぁ」というやや丸くなった黄色い声援が合唱のように送られた。「つぐす」の「ぐ」の発音は、鼻濁音ではなく普通の発音である。
「頑張れ」と「けっぱれ」は、最大限の力を発揮せよという声援か。「つぐすナ」「失敗するナ」は、これまでの努力を細心の注意で確実にせよ、というニュアンスを含んでいた。
ゴム跳ねを見かけなくなってから、この方言もまた聞かれなくなった。同年輩が何かに挑戦する際に、私は未だに「けっばれ」より「つぐすナよ」と声をかけたくなる。それを心得た相手は、にやりと笑みを返す。そしておそらく彼は、私と同じように女系家族なのである。