その69「私は、裏切りません。」

私は、裏切りません。

 新型コロナウイルスとの闘いは長期戦に入った。頼みの綱は、日常の感染予防対策とワクチンである。まずは我が身。てんでんこ。もともと出不精なので、不要不急以外の外出はしていない。最近は外呑み、はしご酒、外食などもしない。ついでに博打もしない。飲食店を営む知人たちにエールを送るにも、コロナ以前から彼らのお役には立てていなかったのだ。

 家には、あおもり藍の石鹸と、市販のうがい薬と、不織布マスク数箱のストックがある。これで万全だと思っていた矢先、思いがけず、愛しい我が町会から不織布マスク50枚入りのひと箱が届けられた。回覧板で予告していたようだが、見落としていた私にはうれしいサプライズだった。箱を覆っている手作りラベルにはこう書かれていた・・・。

「コロナに負けるな!!」<感染しない・させない>ご協力をお願いします。T町会。

 ラベルの文句は、妖怪アマビエの甘いささやきのようで、心地よい。

 もし、劇作家のつかこうへい氏なら、女優さんにこう言わせるだろう。

 「無口な、あの町会長さんは、その日、ヘナヘナの、何度も手洗いしたような布マスクでした。手持ち1枚きりのものに違いない。なのに、丸眼鏡を息で曇らせながら、錆びたママチャリの荷台いっぱいの、ひと箱50枚入り不織布マスクをせっせと配っていました。私は、そんな町会長さんを裏切れません!新型コロナには、絶対にかかれないんです!!」

 つか先生は、役者にセリフを口頭で伝える、口立て芝居の人だった。書かれたものではないセリフは、素朴な情感にあふれる。そんな感じで、私の地元愛は落下傘のように花開いたのだった。この先、長旅に出る時には懐ろの巾着に一握りの「古里の土」を入れるだろう。

 あぁ、我が町会。それにつけても、あの最も多忙な青森ねぶた祭り期間中に、めぐりめぐって毎度、私がごみ当番に当たるのはなぜなのか。否、それでいい。今年は、許します。