
時々友人に誘われてゆく居酒屋さんがある。カウンター席テーブル席を併せて15~20席の、全く気取りのないお店だ。先日、女将さんが県外客からの手紙と数葉の絵手紙を見せてくれた。特別に許しをもらって、ここに紹介させていただく。
年配男性からの葉書である。「福岡から6泊7日の青森旅行、6泊のうち4日間、『(店名)』で楽しませてもらった者です。奥入瀬の流れ、木もれ日に光る森、白濁した酸ヶ湯温泉、下北、津軽、あちこち行って楽しみましたが、私に一番青森を感じさせてくれたのは、『(店名)』での一時でした。(略)」そして、二通目。「私が出したハガキに返事が来るとは・・。少し期待はしていましたが、遠い青森からの手紙嬉しかったです。(略)よろしければ、時々ハガキを出してもいいですか。」この方は、近所の宿泊先からふらりと立ち寄っている。
店をひとりで切り盛りしている女将さんは、私の知る限り、どんなに混みあっても注文の一品すら待たせることがない。好印象はそんな所にもあるに違いない。
封書は年配の女性から。「先日、大阪から来ていると話したものです。(略)お店でママと話ができて、偶然に話ができた若い方々と知り合えて楽しい時間が過ごせて・・・」とある。お互いのふるさと自慢が飛び交ったりと、なごやかな光景が目に浮かぶ。
絵手紙は、前述の福岡からの男性だ。慣れた筆致で愛猫や紅のカエデなどが描かれている。×印で文字を削除している箇所があり、全く気負わずに書いているのが分かる。
SNSではなく文通なのがいい。古い言い方をすると、手紙の日付のほとんどが神無月(旧暦10月)で、秋の行楽シーズンの辺りは、それぞれの土地の神々が旅人にぴったりと寄り沿い、出雲までの漫遊を楽しむ時季かとあらぬ想像をしてしまう。 生涯に一度のすれ違い。「お元気で」。旅人との別れはいつも祈りでつながっている。