その128「ソメイヨシノには年輪がない?」

 ウォーキングに目覚める。一念発起した。デスクワークが多く、運動のひとつも取り入れなければよろしくない。スポーツとは程遠い、散歩に毛が生えたくらいのものである。

 専門家は一日一万歩が理想だとか、七千歩で大丈夫とか、無理せず五千歩で良いだろうなどと私を攪乱している。近所に合浦公園がある。ストイックにならず、ノルマは設定せずに、楽しく歩くのが目的だから私の場合は五千歩にも満たない。

 高齢者の場合は、立ったり座ったりの足腰の瞬発力を鍛えるのが大切だ、という。さらに、転ばないようにバランス感覚を磨くのが主眼となる。歩行用のストックを購入する。これがすこぶる良い。公園に散らばる松ぽっくりを不意に踏んでも驚かない。実に安定している。

 頬に冷たい海風、残雪の匂い。あちらこちらからカラスの鳴き声がする。海べりのベンチの辺りでは丸々と太った鳩が数羽、何かをついばみながら平然と歩いている。啄木の碑が見えた。散歩中は、なるべく自然と一体になろうと心掛けている。のんびり楽しく。でなければ長続きしないのだ。目的は難題の継続そのもの。

 3月下旬。木の根本には、今冬の雪で折れた枝の束が置かれていた。一部、根こそぎ倒壊した松の大木もあったが、翌々日に同じ場所を通ると、撤去されていた。手際がよい。なるほど、4月中旬から「青森春まつり」があるのだ。メンテナンスが毎年続けられていると思えば、素直に頭が下がる。

 寛仁(ともひと)親王の長女・彬子(あきこ)女王の著書「新装版/京都・ものがたりの道(毎日新聞出版)」に、こんなことが書かれてあった。桜守の佐野藤右衛門さんの話だ。「ソメイヨシノには年輪がない。みなが幹やと思うとる所は、枝が太とうなっとるだけや」。驚いた。佐野さんは「桜は木の下に入って見るのが一番美しい」という。そして彬子女王が「一般的に花は太陽に向かって咲くのに、桜は下に向かって咲く」と続ける。

 合浦公園を管理・整備している作業員の方々の笑い声がした。今年は、木の下から満開の桜を見上げると決めた。