その109「はんかくさい?」

「はんかくさい?」

津軽方言では「床屋さんに行った?」という問いかけを「じゃんぼ、刈った?」と言う。今時、なかなか聞けないそんな科白を、久しぶりに耳にした。作業の集中力が途切れた瞬間に、周囲からは色々な声や物音が聞こえてくる。その時、「そうじゃなくて」と言い訳に始まり、笑いが起こった。傍観者である私も迂闊だった。文字に起こした方が分かり易い。「ジャンボ、買った?」は、宝くじの、サマージャンボのことだった。

いつの日か社内で飛び交っていた、書類上の「備考欄」というワードから、往年の歌手で女優の李香蘭(りこうらん)の名前がよぎった。緊張の糸が切れたばかりの妄想が始まる。元参議院議員の山口淑子氏が螺鈿(らでん)の文机に端座し、履歴書の備考欄に李香蘭と書いているその麗しいお姿が見えて来た。お若い方はご存じないかと思うけれど、どうぞ「蘇州夜曲」でお調べを。

まだある。我が家が雨漏りに見舞われた際に、所番地を、あまもり県あまもり市に変えた方が賢明だろうかなどと考えたり、振り返れば全て駄洒落なのだが、若い時とは違って「空耳」が駄洒落を運んでくる率が高くなった。

お気楽なことばかりではない。「苺」を「毒」と見間違えたり、「祝う」を「呪う」に見間違えたりすることもある。

大分前に、こんなことがあった。全国向けのテレビニュースで、野外ステージの賑わいが映し出された。バンド演奏で沢山の観客が盛り上がっている。アナウンスによると、「核の廃絶を訴える集会」だった。ステージ上には大きな横断幕が架かっている。恐らく主催者は誰にも分かり易いように、「反核祭」をわざわざ大きく「ひらがな」で書いた。ちゃかすつもりは毛頭ない。世界平和を願う式典だからこそ、津軽衆はひやりとさせられたのである。