その65「強烈な思い出」

強烈な思い出

 昨年の、秋のこと。青森市立東中学校で3年生のための学校宿泊体験学習が行われた。
「修学旅行に代わる楽しい思い出を残してあげたい。」旅行の中止に伴い、生徒らを慮った先生たちやPTAのみなさんが計画したものだった。段ボールベッドを活用するなどした防災体験を兼ねた貴重な宿泊体験だ。進学を控えている彼らには学校OBの大学生たちが勉強を手伝った。夕食時には、会場の体育館で学校OBのジャズクラブの女性が迫力の歌をプレゼントしてくれた。この企画は、つくづく愛情のシャワーである。
 一泊二日。校庭での焚火談義(キャンプファイアー)、怪談話や肝試し。なんといっても、夜遅くまで語り合ったクラスメイトとの交流が印象に残ったようだ。
 いつかそれぞれの進学先で、同じく旅行中止を余儀なくされた同世代の仲間たちと語らう時が来る。思い出はその時になって、楽しい体験だけではなく、企画を進めてくれた方々の思いやりと一緒に熱くよみがえるに違いない。 
 昨年を振り返る。市内の学校では遠隔授業や、休校の延長、分散登校などコロナ感染防止対策が優先して取られた。一日、分散登校をするとある中学校を取材した。早朝、生徒たちに「久しぶりの学校では何が楽しみ?」と質問すると「友達とおしゃべりしたい。」「どんな話を?」「ゲームの話です。」微笑ましい。内容よりも気の置けない仲間と話すのが楽しい。
 私にも学校宿泊体験がある。小学生の頃のことで、未だに薄暗い教室の様子がぼんやりと記憶にある。小学校は我家の隣りである。当日の夕方、布団を背負って校門に向かった。子供ながら人目につくのははばかられた。やはりと言おうか、市道を挟んだ雑貨店のおばちゃんに見つけられ、「おう。とうとう、家バ出されだが?」とからかわれた。この日の宿泊体験の内容は記憶にない。おばちゃんの強烈な一言に、全てが吹っ飛んでしまったからだ。