その73「足元を見られる」

足元を見られる

 ビフォーコロナのとある一日、親類縁者総出の盛大な結婚披露宴に出席した。私の席の右隣には初めてお会いする遠縁の小父さんがいて、左隣はいつもの顔見知りの叔父がいた。当たり障りのない「持病」の話しになり「腰痛持ち」を打ち明けると、右隣はすかさず「靴だよ。最低でも一万円以上のものでないとダメなんだ」とアドバイスをくれた。左隣の叔父は「それじゃ、俺の靴をやる。足のサイズは同じだろ」と訊いて来た。二人の真ん中で首を左右させながら、ピンポンの白熱の試合見物のごとく、両者の靴談義に耳を傾けた。

 最近、フットケアをするという靴屋さんを見つけた。取材に伺うと、これが又おもしろい。私のサイズは26.5センチだが、それは靴のサイズで、実際の足のサイズは25.1センチだと告げられた。靴は少なくとも1センチの余裕を見ているのだという。驚いた。そういえば、ジャイアント馬場選手がお亡くなりの際に、足のサイズを測定した人がいた。十六文キックが有名だが、サイズは十六文もなかったという。この笑い話、今更ながらだが、頷ける。

 スニーカータイプの旅行用の靴が欲しかった。この際気張って、靴と、計測した上での特注の自前インソール、そして外反母趾用の靴下を購入した。これが、素晴らしい履き心地で、まるで雲の上を歩くような感触なのだ。足腰に負担がかからないのがよぉく分かる。  社内の、かの靴店を紹介してくれた妙齢の女史は、私以上に熱の入れようだった。「やはり、違うよね。」パンプス、インソール。良い買い物をして同類となった私にホクホク顔をして見せた。社内では通常、うち履きのサンダル・スリッパに履き替える。小ぶりな部内の靴箱には輝くような靴が一足置かれていた。帰宅時間だ。あわてて帰り支度をしている彼女の背を見送った。この後約束事があるようだった。日日是好日である。窓の夕日に彩られた靴箱には、くだんのパンプスが残されていた。女史はサンダルで帰ったのだ。好事魔多し。

目次
閉じる