俳優の千葉真一が亡くなった。若い方々には新田真剣佑のお父さんだと言った方が通りが良いかもしれない。真剣佑のお父さんって誰、と聞かれたこともある。隔世の感だ。
私は子供時代から熱烈な千葉ファンだった。柔道テレビドラマ「くらやみ五段」や、「七色仮面」「アラーの使者」など、いわゆるヒーローものである。小学校低学年から、早くも空中回転やバク転をマスターしたのも、彼にあこがれてのことだった。
一度だけ、ご本人とすれ違ったことがある。今はない新宿コマ劇場で、千葉主演の舞台劇「柳生一族の陰謀」を観た。謦咳(けいがい)に接する?唯一のチャンスだった。
いくつかある客席通路の角、やや後部のチケットを手に入れた。これが思いがけない幸運を呼ぶ。舞台進行半ばで、柳生十兵衛に扮した千葉が客席通路に降りて、私に向かって歩いて来たのだ。そう、私に向かって。手の届く位置まで接近、汗でメイクが落ちそうな様子が目に焼き付いている。舞台には、当時のJAC(ジャパンアクションクラブ)の主要スターたち、真田広之、志穂美悦子、千葉治郎(千葉の弟)らが綺羅星のごとく並んでいた。終演後、興奮冷めやらぬ体で売店まで走り、サイン色紙やらサイン入り湯飲み茶椀などを買ったものだ。売店そのものが宝の山だった。銀幕スターの生舞台はなかなかお目にかかれない。
千葉は、数年前には芸能生活50周年を迎えていたようだ。書籍が何冊か刊行されていたと聞いて、望外なプレミアがついた本を三冊取り寄せた。そのうちの一冊は「キッズアクション入門」、子供向けのDVD付き書籍だ。DVDの封はまだ切らないでいる。千葉は私の夢の原点だった。この書籍は幼いあいつに、「少年時代の自分」に贈りたいのである。 平成4年、青森市文化会館10周年記念演劇公演「きみ歌えたまゆらのとき」の、物語の最後に、兵士役の私がひとり語りをする場面がある。実は密かに千葉になりきっていた。