その61「新しい生活様式」

「新しい生活様式」

 翌日の昼食は手作りサンドイッチにしようと決めた。準備万端のつもりが、朝になって気づいた。食パンが一枚だけだった。サンドにならない。そこで、トーストに具材をたっぷり乗せて慎重にアルミホイルで包んだ。昼になった。おもむろに取り出すと、周りから「はやりのオープンサンドではないか」と言われる。恥をかくどころか最新のランチになった。この期に及んでパンがなかったとは言えない。オープンサンドはどうやって食べるのだろう。

 特大ハンバーガーのようにおもむろにかぶりついてみた。口のまわりがぐちゃぐちゃになったのはご愛敬である。見栄を張るものではない。

 最近になって、マスクをかけ忘れていることが多い。対面仕事に差し支える。そのため、バッグの奥深くに、必ず予備を持ち歩くようになった。

 とある駐車場に、一台の軽自動車が止まっていた。長く伸びたラジオアンテナの先端にアベノマスク風の布マスクが引っ掛かっていた。というより社旗のように掲げられていた。風による偶然だったにしろ、なんだか滑稽なほどに見事な光景だった。この車を「マスクをしようよキャンペーン」のPRカーにしたらどうかしらと、思った。いやいや、コロナには白旗を挙げた、ということの方がいいか。

 先日、墓参りを済ませ親戚一同でいつもの回転寿司に行った。4人掛けの席、2席にシニア組とヤング組に分かれて座った。レーンには空の皿ばかりで、なかなか寿司が回ってこない。我々シニア組は、ようやく来た一皿を手に取った。隣の家族の坊やがあっ、と叫んだ。その驚きの意味が分からない。次の皿を待った。テーブルをよくよく見ると、メニューの脇に注文方法が書かれていた。タッチパネルであらかじめ注文しないと皿が来ない方式になっていたのだ。ヤング席は何事もなく食べている。我らジジババ席は、世間に迷惑をかけながら、様変わりしてゆく新常識を学んでいく。お隣の坊やには悪いことをした。